NMR メタボロミクス (定量的プロトンNMR)

7-10-2017 Last update

 

このページは NMR メタボロミクス @本家UBサイト および 化学シフト @本家UBサイト に恒久的に移転しました。このページもネット上に残っていますが,最新の情報はリンク先を参照して下さい。

 


  1. 概要: NMR メタボロミクスとは
  2. 血液・尿の NMR メタボロミクス
  3. 組織の NMR メタボロミクス
  4. バクテリアの NMR メタボロミクス
  5. 溶媒によるケミカルシフト値の違い

関連項目


概要: NMR メタボロミクス (定量的 H-NMR) とは

複数の代謝産物を同時かつ網羅的に同定・定量する手法を メタボロミクス metabolomics という。遺伝子を標的としたゲノミクス genomics,タンパク質を標的としたプロテオミクス proteomics よりも表現型 phenotype に近いことから,近年とくに注目されている実験手法である。

 

この分野の第一人者である Nicholson のグループは,メタボノミクス metabonomics という言葉も好んで使っている。メタボロミクスは代謝産物の同定および定量に重きを置いており,メタボノミクスは特定の代謝系の変動に重きを置いている(5)。このサイトでは,原則として両者を区別せずに「メタボロミクス」という言葉を用いる。

 

メタボロミクスには,一般に NMR(主に 1H NMR)または質量分析 mass spectrometry が使われる(4)。両者はそれぞれに特徴があり,どちらが優れているというわけではなく,相補的な情報を与える手法である(4)。このページでは,1H NMR を用いた代謝産物の定量(1H NMR によるメタボロミクス)について解説する。

 

 

H NMR メタボロミクスの利点と欠点

1H NMR を用いた代謝産物の定量は,以下のような利点と欠点をもっている (3,4)。

 

利点

  • 1H は最も NMR 感受性の高い原子核である。これは,gyromagnetic ratio においても,natural abundance (99.9% 以上) においても言えることである。
  • ほとんどの代謝産物は 1H を含んでいるので,検出可能である。
  • MS に比べて,試料の前処理が少なくて良い。
  • 代謝産物の定量を,非侵襲的に in vivo で行える magnetic resonance spectroscopy (MRS) という手法がある。

 

欠点

  • 水 water の巨大なピークが現れてしまうため,water suppression が必要となる。
  • ケミカルシフトの範囲が約 5 ppm と狭いため,ピークが重なることが多い。脂質 lipid やタンパク質 protein などのブロードなピークと重なることもある。
  • 以上のことと関係して,的確なシム shim による磁場の均一性が非常に重要である。
  • 一般に MS の方が検出感度が高いが,高磁場 NMR では µM オーダーの代謝産物を 5 分程度で検出することが可能になっている(4)。

 

1H NMR は有効なメタボロミクス手法であり,たとえばヒト,齧歯類の脳では 15 から 20 個の代謝産物を同時に定量することが可能である。 

 

> NMR チューブに内部標準を入れる方法と,外部標準を別に測定する方法がある(1)。

> 外部標準物質の条件: 非揮発性,溶媒に可溶かつ溶媒中で安定で,高純度の標品が手に入ること(1)。

> 溶媒としては,揮発性の高い CD2Cl2 や CDCl3 は不適だった(1)。

> Plasma などタンパク質の多い溶液では,TSP を内部標準に使ってはいけない。タンパク質に結合するため(4)。 

血液・尿の 1H NMR メタボロミクス

血液と尿は,試料の採取が比較的容易なことから,NMR メタボロミクスのサンプルとしてよく使われる。

 

> ヒトの血液および尿の 1H NMR に関するレビューがある(6)。 

: NMR metabolomics の基本はバイオマーカー探しである。通常,解析後に主成分分析などが行われる。

: また,treatment の影響を調べた研究も多い。

: がん cancer のバイオマーカー探索を目的とした論文が 2008-2013 では最も多い。

: たとえば,乳がん breast cancer 患者の尿で TCA 回路の中間体量が変化するとの報告。

溶媒によるケミカルシフト値の違い

溶媒自体のケミカルシフトはいろいろと文献があるのだが,目的物質のケミカルシフトが溶媒によってどれだけ変化するかについては意外と情報が少なく,やっと Sigma のカタログでみつけることができた(2)。一部を表にまとめておく。

 

Compounds CDCl3 DMSO-d6 C5D5N or CH5N C6D6 or C6H6 D2O Ref
酢酸 (Acetic acid) 2.13 1.95 2.13 1.63 2.16 2

ジメチルホルムアミド

Dimethylformamide

8.01

2.95

2.88

7.98

2.92

2.72

2.66

2.40

1.98

7.91

3.00

2.86

2
エタノール (Ethanol)

3.72 (q)

1.24 (t)

3.49 (q)

1.09 (t)

3.86 (q)

1.29 (t)

3.39 (q)

0.97 (t)

3.46 (q)

1.16 (t)

2
コメント: 0

References

  1. Frank et al. 2014a. Accurate determination of reference materials and natural isolates by means of quantitative 1H NMR spectroscopy. J Agric Food Chem, 62, 2506-2515.
  2. NMR Solvents. Sigma, pdf file.
  3. de Graaf 2007a (Book). In vivo NMR spectroscopy 2nd ed. John Wiley & Sons, Ltd. Amazon link.
  4. Beckonert et al. 2007a (Review). Metabolic profiling, metabolomic and metabonomic procedures for NMR spectroscopy of urine, plasma, serum and tissue extracts. Nat Protoc 2, 2692-2703.
  5. 吉田ら 2009a (Review). メタボロミクスとメタボノミクス. ぶんせき 7, 371-378.
  6. Duarte et al. 2014a (Review). NMR metabolomics of human blood and urine in disease research. J Pharm Biomed Anal 93, 17-26.