肥満モデル Zucker rat

2-19-2015 updated

  1. レプチン受容体遺伝子の変異

関連項目




レプチン受容体遺伝子の変異

Zucker rat とは,レプチン受容体 の遺伝子に変異をもつ 肥満モデルラットである。

発見の経緯


肥満を呈するマウスモデル ob/ob や db/db に関する研究が先行しており,ob がレプチン leptin をコードすることが1994年にまず明らかとなった。リコンビナントのレプチンは,ob/ob の肥満抑制には効果があるが,db/db には効果がないことから,db がレプチン受容体 leptin receptor(少なくともレプチン下流の何か)をコードすることは予想されていた。

 

マウス ob/ob や db/db と似た表現型を示す fatty というラットモデルも知られており,1991年にはfatty がマウス db の相同遺伝子であることが示唆されている。

 

1996年,文献6によって fatty がレプチン受容体をコードすることが明らかにされ,変異の位置も特定された。さらに文献7では,cDNAクローニングなどレプチン受容体の詳細な解析が行われている。

 

Zucker rat の変異


> レプチン受容体の806番目のAがCに変異しており,Gln269Proの置換をもたらしている(3R)。

: 脳のmRNA量,リガンド結合性とも lean control との差はなく,シグナル伝達に違いがあるかも。

: なお,マウス db/db はレプチン受容体に遺伝子レベルでの変異がみられる。

> 変異のせいで,long-form leptin receptor が機能しなくなっている(1I)。

: 脳における long-form の発現部位は視床,視床下部,大脳皮質,中脳,海馬。

: 末梢器官では,膵臓,肝臓,腎臓,脾臓,心臓。


ドーパミン系の変化

Researcher


> 脳におけるドーパミン受容体 dopamine receptor の発現量が変化している(2)。

: D1受容体mRNA量は,神経核 VMH および adenohypophysis (AH) で増大。

: Lateral hypothalamic area (LHA) では低下していた。

: D2受容体mRNA量は,VMH と LHA で低下し,AHでは変化していなかった。

: これらの変化が,食欲を増進させ肥満の原因になっていると考えられた。

> 線条体 striatum でのD2受容体量が低下している(4)。

: 肥満したヒトでも同様の変化が認められ,メカニズムは不明だがそれは肥満と associate している(5)。


食事の刺激に対する反応 Response to food stimuli

Researcher


以下の論文から,Zucker は食べ物の刺激 food stimuli(臭いなど)に応じて,実際の食べ物 food reward を探す脳神経回路の活性と,実際の行動力が高いことがわかる。

> ベーコンの臭いを嗅がせたときのグルコース代謝の変化を FDG-PET で詳しく調べた例がある(3)。

: Zucker/control, unrestricted feeding/restricted feeding (70%), pre-diet/post-diet で比較している。

: Pre-diet はベーコンの香りを初めて嗅がせる区,post-diet は香りの後に食べさせる条件づけを5日間。

 

> 肥満および食事制限されたラットは,餌を探す goal-directed behavior に関連する領域の活性が高い(3)。

  • 海馬 hippocampus ではベーコンの香りでグルコース代謝が低下した。その度合いは Zucker restricted > lean unrestricted > Zucker unrestricted > lean restricted であった。
  • Medial thalamus (goal-directed behavior) では,ベーコンの香りでグルコース代謝が増加した。その度合いは Zucker > lean,restricted > unrestricted であった。
  • 嗅球 olfactory bulb では,unrestricted のみベーコンの臭いでグルコース代謝が増大した。
  • Right insular cortex および right parietal cortex (integrate multimodal sensory input) では,ベーコンの臭いで unrestricted のグルコース代謝は増大したが,restricted では低下した。
  • Zucker のみ,ベーコンの臭いによる frontal cortex のグルコース代謝低下がみられた。この領域は,理性による食欲抑制に関係していると考えられる。つまり,食欲の抑制が利きにくいことを示唆する。

References

  1. Thanos et al. 2013a. Obese rats deficient leptin signaling exhibit hightened sensitivity to olfactory food cues. Synapse 67, 171-178.
  2. Fetissov et al. 2002a. Expression of dopaminergic receptors in the hypothalamus of lean and obese Zucker rats and food intake. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 283, R905-R10.
  3. Thanos et al. 2008a. Differences in response to food stimuli in a rat model of obesity: in-vivo assessment of brain glucose metabolism. Int J Obes 32, 1171-1179.
  4. Hamdi et al. 1992a. Decreased striatal D2 dopamine receptors in obese Zucker rats: changes during aging. Brain Res 589, 338-340.
  5. Volkow et al. 2008a. Low dopamine striatal D2 receptors are associated with prefrontal metabolism in obese subjects: possible contributing factors. NeuroImage 42, 1537-1543.
  6. Chua et al. 1996a. Phenotypes of mouse diabetes and rat farry due to mutations in the OB (leptin) receptor. Science 271, 994-996.
  7. Takaya et al. 1996a. Molecular cloning of rat leptin receptor isoform complementary DNAs - identification of a missense mutation in Zucker fatty (fa/fa) rats. BBRC 225, 75-83.