TCAサイクル(The citric acid cycle)

10-8-2017 Last update

 

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7-25-2016 updated

  1. 概要
  2. 代謝産物の流入および流出
  3. 各反応の解説
  4. 覚え方

関連項目

 

関係する化合物


概要

TCA 回路は,ほとんどの栄養素 fuel molecule が最終的に酸化される分子経路 である。

"The final common pathway for the oxidation of fuel molecules - carbohydrates, fatty acids, amino acids."

 

  • 栄養素の多くは,アセチル CoA の形で TCA 回路に入る。
  • 反応のほとんどは,ミトコンドリアマトリックスで行われる。

 

生化学的意義

  1. アセチル CoA を酸化し,2 分子の COを作り出す。酸化の最終段階。
  2. 酸化的リン酸化のための NADH および FADH2 を作り出す。食べ物から取り出したエネルギーを,これらの高エネルギー分子に変換するとも考えられる。これらは電子の運搬体であるため,high energy electron を作り出すという表現も可能である。
  3. ATP を直接作るわけではない。ATP は,NADH と FADH2 が電子伝達系に使われることで作られる。
  4. アミノ酸代謝,尿素回路,糖新生など多くの代謝経路の仲立ちをする。

 

 

TCA cycle

Molecular Biology of the Cell, 5th ed.

 

TCA 回路の全体の反応は,以下の式で表すことができる。

 

アセチル CoA + 3NAD+ + FAD + GDP + Pi + 2H2O

 

 

2CO2 + 3NADH + FADH2 + GTP + 2H+ + CoA

 

 

TCA 回路はクエン酸回路 citric acid cycle,クレブス回路 Krebs cycle とも呼ばれる。citric の発音は [sitrik] であり,「サイトリック」ではないので注意すること。

TCAサイクルへの代謝産物の流入および他の代謝経路への流出

流入

 

代謝産物 説明
ピルビン酸 ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体 PDH に酸化されてアセチル CoA として TCA 回路に入る(反応0)ほか,ピルビン酸カルボキシラーゼ PC に触媒されオキサロ酢酸として入る経路もある。これは補充反応 anaplerosis と呼ばれる。

酢酸

アセチル CoA リガーゼによって補酵素 A と結合し,アセチル CoA になる。これが TCA 回路で酸化される。

 

 

代謝産物 説明
グルタミン酸 Glutamate  

バリン

Valine

特徴的な系で分解され,サクシニルCoAとしてTCA回路に入る。Val,Leu,Ileは分岐鎖アミノ酸BCAAであり,分解系には共通のステップが存在する。

ロイシン

Leucine

分解されるとアセチルCoAができる。

イソロイシン

Isoleucine

分解されるとアセチルCoAとサクシニルCoAができる。

 

流出

 

代謝産物 説明

アセチル CoA

アセチル CoA カルボキシラーゼ ACC によってマロニル CoA になる。エネルギーが過剰なときに脂肪酸を合成する最初のステップである。同時にマロニル CoA が β 酸化を阻害する。

 

代謝産物 説明

α-ケトグルタル酸

α-KG

α-KG からは グルタミン酸 が合成される。神経系では Glu の一部がさらに GABA に変換され,その後 TCA 回路に戻ってくる経路がある。これは GABA shunt と呼ばれ,TCA 回路のバイパス経路(下記参照)と考えられる。

リンゴ酸

Malate

NADP-linked malic enzyme (EC 1.1.1.40) によって脱炭酸され,ピルビン酸になる反応がある。肝臓,腎臓および脳に存在する(9I)。Pyruvate recycling とよばれる。

オキサロ酢酸

Oxaloacetate

オキサロ酢酸は,様々な生合成反応の出発点である。

 

  • PEPCK の作用によって PEP になる。PEP がさらにピルビン酸キナーゼよりピルビン酸になる反応が Pyruvate recycling であり,PDH に触媒される補充反応 anaplerosis の逆反応である。
  • PEP はグリセロール glycerol 合成にも使われ,この反応は glyceroneogenesis と呼ばれる。
  • オキサロ酢酸は,グルタミン酸からアミノ基の転移を受けてアスパラギン酸になる。Asp およびアスパラギンの合成反応である。

TCAサイクルのバイパス経路

 

代謝産物 説明
GABA  α-KG からグルタミン酸が合成される。Gluの一部は抑制性神経伝達物質GABAに変換される。GABAが代謝される際は,succinic semialdehyde (SSA) を経てコハク酸 succinic acid となってTCA回路に戻る。一連の反応はTCA回路のバイパス経路と考えることもでき,GABA shunt と呼ばれる。

 

各反応の解説

0. ピルビン酸の酸化

ピルビン酸の酸化は,解糖系と TCA サイクルを結びつける重要な反応である。3 つの酵素と 5 つの補酵素を必要とする複雑な反応であるが,全体として以下の式で表すことができる。Coenzyme A (CoA) はアシル基の運び屋として様々な反応に関与する補酵素である。構造が複雑なため,このページでは単に CoA と表記する。

 

Pyruvate + CoA + NAD+ -> Acetyl-CoA + CO2 + NADH + H+

ピルビン酸の酸化

解糖系の最終産物であるピルビン酸 pyruvate は,好気的条件下ではミトコンドリアへ輸送されアセチル CoA になる(1)。嫌気的条件化では乳酸 lactate またはエタノール ethanol に代謝される。この分岐は生化学上極めて重要である。

> 通常の酸素濃度にある脊椎動物の細胞では,ATP の 95% 以上が好気呼吸で産生される(10D)。

: グルコースの大部分が水と二酸化炭素になり,乳酸になるのは 4% 程度

 

> この反応は 不可逆 である(1)。これは,たとえば脂質からグルコースを合成できないことを意味する。

: 脂肪酸合成の経路は acetyl CoA から分岐し,分解された脂肪は acetyl CoA になる。

: また,いったんこの反応が起こったら,グルコースは酸化されるか脂質になるかという運命しかない。

 

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ PDH

 

> アセチル CoA への代謝を触媒するのは pyruvate dehydrogenase (PDH) complexである(1)。

> PDH の活性は,ミトコンドリア内のアセチル CoA/CoA の存在比などによって制御される(2I)。

> 黒字の 1 - 6 は,ピルビン酸が解糖系に由来する場合のグルコースの炭素番号。

> 赤字の 1 - 3 は,ピルビン酸またはアセチル CoA の炭素番号。どちらもラベル実験以外ではあまり重要ではない。

 

1. クエン酸(C6)の合成

クエン酸の合成

> アルドール縮合および脱水反応で,クエン酸シンターゼ citrate synthase に触媒される(1)。

> 最初の重要な反応であり,アセチル CoA の加水分解が間違って起こらないようなメカニズムがある(1)。

: Citrate synthase は最初にオキサロ酢酸に結合しないと,アセチル CoA と結合することができない。

: 加水分解の活性中心は,citryl CoA と酵素の相互作用で正しい位置に来るようになっている。

 

> 1, 2, 5, 6 は,グルコースが解糖を経て TCA 回路に入ってきた場合の,もとのグルコースの炭素番号。

 

2. クエン酸(C6)の異性化

クエン酸は安定すぎるため,今後の反応のために H と OH の位置を入れ替える反応である。実際は脱水反応 dehydration と水和反応 hydration が連続して起こっている。

クエン酸の異性化

> この反応を触媒するアコニターゼ aconitase は,細胞質で鉄調節タンパク質としても機能する。See blog

: ヘム heme を使わずに鉄 iron と結合する珍しいタンパク質である。

3. イソクエン酸の酸化および脱炭酸

ここから 4 つの酸化還元反応が連続することになり,イソクエン酸の酸化はその第一段階である。この反応は

 

イソクエン酸 + NAD+ -> α-ケトグルタル酸 + CO2 + NADH

 

と表すことができる。NADH を生成する最初の反応である。TCA 回路全体の重要な律速段階の一つ(1)。もう一つは次のサクシニル CoA の生成である。

イソクエン酸の酸化と脱炭酸

> α-ケトグルタル酸は,2-オキソグルタル酸 2-oxoglutarate とも呼ばれる。

> α-ケトグルタル酸は,神経細胞 neuron での グルタミン酸 合成の基質としても重要。

 

> D-isocitrate dehydrogenase は ADP の結合で活性化される(1)。基質との親和性が増大する。

: ATP および NADH で阻害される。TCA flux は基本的にエネルギー状態で決まっているようだ。

 

 

この酵素が阻害されると,細胞内には D-isocitrate および citrate が蓄積する。両者の変換はきわめて可逆的であるためである(1)。Citrate は細胞質に輸送され,解糖系の律速酵素である PFK を阻害する。つまり,この酵素が律速段階になっているということは,TCA 回路から解糖系へ「エネルギーが十分」というシグナルを伝えるという feedback の意味がある。

4. 連続して脱炭酸が起こる - サクシニル CoA の生成

2 番目の酸化反応は,サクシニル CoA の生成である。この反応を触媒する α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼは 3 つの酵素の複合体で,ピルビン酸デヒドロゲナーゼに相同である。

 

実際にこの反応はピルビン酸の酸化・アセチル CoA の生成によく似ており,こちらの図には書いていないが最初に脱炭酸が起こる。

 

α-ケトグルタル酸 + CoA + NAD+ -> サクシニルCoA + CO2 + NADH 

ピルビン酸 + CoA + NAD+ -> アセチルCoA + CO2 + NADH

 

サクシニルCoAの生成

> この酵素は,反応生成物のサクシニル CoA および NADH で阻害される(1)。

5. サクシニル CoA の酸化と GTP の生成

前の反応でできたサクシニル CoA は高エネルギー中間体であり,加水分解される際に放出されるエネルギーは ATP のそれに匹敵する(1)。したがってすぐに CoA が脱離し,そのエネルギーは GDP に受け渡される。

 

GTP はそのままシグナル分子として使われるほか,以下の反応によって ATP を産生する場合もある。

 

GTP + ATP → GDP + ATP

サクシニルCoAの酸化

> TCA 回路で唯一,直接的に高エネルギーリン酸結合を作る反応である(1)。

: 種によっては GDP でなく ADP を用い,ATP を産生することもある。

 

6. コハク酸の酸化

第 3 の酸化反応は,FAD から FADHを生成する反応である。ここから続く一連の酸化,水和,酸化という反応は,メチル基 CHをカルボキシル基 C=O に変換するときによく使われる反応で,β 酸化 の際にも似たような反応が起こる(参考: 官能基の一覧化学結合の一覧)。

 

 

コハク酸 + FAD → フマル酸 + FADH2

コハク酸の酸化

> この反応では,NAD+ でなく FAD がプロトンおよび電子の受容体として使われる(1)。

: この反応の自由エネルギーが,NAD還元するのに不十分なためである。

: このように 近い位置から 2 つの電子を引き抜く反応では,一般に FAD が使われる。

: 詳細は FAD のページを参照のこと。

 

> コハク酸デヒドロゲナーゼは,他の TCA 回路の酵素と異なり,ミトコンドリア内膜に埋め込まれている(1)。

: 膜の電子伝達系に直接 FADH2 を渡す。

: そのため,ページ上の日本語 TCA 回路全体像では,FAD でなく Q が補酵素のように書かれている。

7. フマル酸の水和

フマル酸 fumarate [fjuːməreit] からリンゴ酸 malate [meileit] が合成される。

 

フマル酸の水和

8. リンゴ酸の酸化とオキサロ酢酸の生成

リンゴ酸の酸化とオキサロ酢酸の生成

覚え方

奥井あさ子不倫 と覚える。Twitter 医学語呂なうより。生化学の格言集,語呂合わせ集も参照のこと。

 

お: オキサロ酢酸

く: クエン酸

い: イソクエン酸

あ: α-ケトグルタル酸

さ: サクシニルCoA

こ: コハク酸

ふ: フマル酸

りん: L-リンゴ酸

 

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References

  1. Berg et al. Biochemistry: 使っているのは 6 版ですが 7 版を紹介しています。
  2. Jucker et al. 1997a. 13C and 31P NMR studies on the effects of increased plasma free fatty acids on intramuscular glucose metabolism in the awake rat. J Biol Chem 272, 10464-10473.
  3. Boumezbeur et al. 2010a. Alterted brain mitochondrial metabolism in healthy aging as assessed by in vivo magnetic resonance specgtrometry. J Cereb Blood Flow Metab 30, 211-221.
  4. de Graaf et al. 2004a (Review). In vivo 1H-[13C]-NMR spectrometry of cerebral metabolism. NMR Biomed 16, 339-357.
  5. Rothman et al. 1992a. 1H-[13C] NMR measurement of [4-13C]glutamate turnover in human brain. Proc Natl Acad Sci USA 89, 9603-9606.
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  9. Serres et al. 2007a. Brain pyruvate recycling and peripheral metabolism: an NMR analysis ex vivo of acetate and glucose metabolism in rat. J Neurochem 101, 1428-1440.
  10. Lardon et al. 2005a. 1H-NMR study of the metabolome of an exceptionally anoxia tolerant vertebrate, the crucian carp (Carassius carassius). Metabolomics 9, 311-323.