ケトン体 Ketone body

10-28-2017 Last update

 

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  1. 概要: ケトン体とは
  2. 生合成
  3. 脳での代謝

関連項目




概要: ケトン体とは

ケトン体 ketone body は,脂肪酸 fatty acid の不完全な酸化によって生じる代謝産物であり,アセト酢酸 acetoacetate, β-ヒドロキシ酢酸 BHB, アセトン acetone の総称である(2)。


ケトン ketone とは意味が異なるので注意すること。


アセト酢酸

D-ヒドロキシ酪酸(D-BHB)

アセトン


ケトン体は,以下のような生化学的特徴をもっている。

  • 糖代謝に対して,脂質代謝が過剰なときに,肝臓で脂質 lipid から合成される。
  • brain をはじめとする様々な組織で,グルコースのかわりのエネルギー源になる。
  • 心筋および腎皮質 renal cortex は,グルコースよりもアセト酢酸を好む(3)。

生合成

糖代謝と脂質代謝のバランス


アセチル CoA は,エネルギー代謝を考える上で中心となる物質である。なぜならば,主要な栄養源である 糖,アミノ酸,脂質は,主としてアセチル CoA を経由して代謝される ためである。


  • グルコースは,解糖系によってピルビン酸 pyruvate にまで分解される。これがピルビン酸デヒドロゲナーゼの作用によってアセチル CoA になり,TCA 回路に入ってさらに酸化される。
  • アミノ酸の代謝経路は種類によって様々であるが,エネルギー源として使われるときには,炭素骨格が解糖系に合流するアミノ酸があり,これらは結局アセチル CoA に代謝される。TCA 回路に直接合流するアミノ酸もある。
  • エネルギー源になる脂質(主としてトリアシルグリセロール)は,まずリパーゼによって脂肪酸 fatty acid とグリセロールに分解される。脂肪酸からは β 酸化 によってアセチル CoA が切り出される。


ここで TCA 回路 のページを見てみると,アセチル CoA が TCA サイクルに入るときには,オキサロ酢酸 oxaloacetate と 1 : 1 で結合する必要がある。したがって,細胞内にいくらアセチル CoA があっても,オキサロ酢酸と同じ量しか酸化することができない のである。 参考のため,右下に小さく TCA 回路の図を示しておく。


オキサロ酢酸は,TCA 回路でリンゴ酸から合成されるが,ピルビン酸からピルビン酸カルボキシラーゼの作用で直接合成することができる。この反応は,補充反応 anaplerosis と呼ばれる。


ところが,このピルビン酸は糖から供給されている。つまり,脂質を酸化してエネルギーを得るためには,脂質から得られるアセチル CoA と同じモル数のピルビン酸を糖から作る必要がある。


脂肪酸はアセチル CoA の単位が連なった高エネルギー物質であり,この分解が活発になると,しばしば糖からのピルビン酸,オキサロ酢酸の供給が追いつかなくなる。


飢餓 fasting または糖尿病 diabetes のとき,オキサロ酢酸からグルコースを合成する糖新生が活発になり,オキサロ酢酸不足に陥りやすい。なお,飢餓時には β 酸化が活性化するため,バランスはさらにアセチル CoA 過剰の方向へ向かう。


ケトン体は,このような状態で過剰となったアセチル CoA から合成される。


以上のことは,生物学の格言 で


脂質は糖の炎で燃える。

Fats burn in the flame of carbohydrates.


と表現される(3)。


生合成反応

上記のように,ケトン体は余剰のアセチル CoA から合成される。3 分子のアセチル CoA が合成に関与するが,結果的には 2 分子からアセト酢酸が生じ,それが BHB またはアセトンに変換される(3)。この反応は,主に肝臓で起こる。

  1. 2 分子のアセチル CoA から,アセトアセチル CoA(acetoacetyl CoA)が生じる。触媒する酵素は 3-ketothiolase である。
  2. さらに 1 分子のアセチル CoA と水が結合し,3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル CoA(3-hydroxy-3-methylglutaryl CoA, HMG-CoA)が生じる。触媒するのは hydroxymethylglutaryl CoA synthase である。
  3. HMG-CoA から 1 分子のアセチル CoA が外れると,アセト酢酸 acetoacetate が生じる(下の図)。Hydroxymethylglutaryl CoA cleavage enzyme が触媒する。
  4. アセト酢酸は,NADH によって還元されると D-ヒドロキシ酪酸(D-BHB)になる。アセト酢酸と D-BHB の量比は,ミトコンドリア内の NADH/NAD の比によって決まる。触媒するのは D-3-hydroxybutylate dehydrogenase である。
  5. アセト酢酸は β-ketoacid であるため,ゆっくりと自動的にアセトンに脱炭酸される。血中のアセト酢酸濃度が高いヒトからは,呼気中にアセトンの匂いを嗅ぐことが可能である。

> 脳で UCP の発現を増大させる(2)。

> GABA 合成を促進するなどして,全体的に GABA の作用を活性化させる(2)。

> 軟骨魚類では,肝臓からの脂質動員 lipid mobilization がケトン体で行われる(1I)。

> 哺乳類でも,離乳前はケトン体が脳の主要なエネルギー源である(1D)。


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References

  1. deRoos (1994). Plasma ketone, glucose, lactate, and alanine levels in the vascular supply to and from the brain oh the spiny dogfish shark (Squalus acanthias). J Exp Zool 268, 354-363.
  2. Lauritzen et al. 2015a (Review). Monocarboxylate transporters in temporal lobe epilepsy: roles of lactate and ketogenic diet. Brain Struct Funct 220, 1-12.