肥満 Obesity

3-11-2017 Last update

 

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  1. 定義
  2. 遺伝的要因
  3. 肥満モデル
  4. 食欲の制御と肥満(詳細は別ページ
  5. 肥満と感覚受容
  6. その他
  7. 肥満と脳の大きさ(別ページ)

関連項目

 

関連遺伝子・タンパク質




肥満の定義(ヒト)

肥満の判定は,body mass index(BMI)によって行われる(2)。

 

BMI = 体重 (kg) / [身長 (m)]2

 

日本肥満学会が決めた判定基準では,統計的にもっとも病気にかかりにくい BMI = 22 を標準とし,25以上が肥満とされている。

 

  • 低体重: 18.5未満
  • 普通体重: 18.5以上 25未満
  • 肥満(1度): 25以上 30未満
  • 肥満(2度): 30以上 35未満
  • 肥満(3度): 35以上 40未満
  • 肥満(4度): 40以上

 

> アメリカでは,成人の約30%が BMI > 30 kg/m2 の肥満である(4)。

> 肥満は糖尿病,心筋梗塞などのリスクを上げる。肥満に起因する医療費は$150 billionと見積もられる(4)。

 

> メタボリックシンドローム metabolic syndrome の病態は肥満,高血圧,脂質異常,耐糖能異常の4項目から判定(8)。


遺伝的要因

> 249,796人のヨーロッパ人を対象とした BMI とゲノム配列の association study がある(4)。

: 32の遺伝子座が BMI と関連していたが,これらは BMI のばらつきの1.5%しか説明できなかった。

: したがって,肥満は遺伝的要因よりも環境要因の影響を強く受けることが示唆された。

肥満と関係する遺伝子

遺伝子 文献  
CNR1 (cannabinoid receptor 1, カナビノイド受容体1)  3 多型がBMIや肥満のリスクと相関
OPRM1 (µ-opioid receptor 1) 3 過食症やアルコール依存症のリスクと相関
Leptin レプチン 5I 脂肪細胞から分泌されるホルモン。食欲や代謝を制御。
Leptin receptor レプチン受容体    

肥満モデル Obese model

マウス Mouse

モデル 原因遺伝子  
ob Leptin 早期肥満およびインスリン抵抗性を呈する有名なモデル。
db Leptin receptor 早期肥満,インスリン抵抗性など ob と似た表現型を示す(6I)。
  LPL

神経特異的な欠損で肥満を呈する。肥満の程度が非常に大きい(8R)。

ラット Rat


モデル 原因遺伝子  
Zucker  Leptin receptor

早期肥満,インスリン抵抗性,高インスリン血症,高脂血症などを示す。かつては fatty と呼ばれていた。もっとも有名な肥満モデルである。

ZDF Leptin receptor

Zucker diabetic fatty の略。Zucker 集団から得られた肥満・糖尿病モデル。Zucker rat は通常は糖尿病を発症しないが,糖尿病になる個体の掛け合わせから ZDF が得られた。

DIO Polygenic Sprague-Dawley rat を高エネルギー食で飼育すると,約50%が肥満を呈し,残りは通常の体重のままである。前者をDIO (diet-induced obesity), 後者をDR (diet-resistant) という。
OP-CD Polygenic Obese prone CD rat。DIO or DR rat の選抜育種によって得られた系統。
OLETF Polygenic

Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty の略。Long-Evans 系ラットの選抜育種で得られた。Charles-River では販売されていない模様。

ZFDM  

Zucker fatty diabetes mellitus の略。Zucker から文献7で選抜育種によって樹立された系統で,10週齢までに糖尿病を発症する。

参考: 肥満ではないがメタボリックシンドロームの症状を示すラットモデル

モデル 原因遺伝子  
GK (Goto-Kakizaki)

Maybe

polygenic

2型糖尿病を早期発症するが肥満にはならない。1970年代に,Wister rat 集団から高血糖を指標とした選抜育種で得られた。
WBN/KOB

 

生後約9ヶ月で,雄に高い確率で糖尿病を発症する。発症を早めるため,Zucker との掛け合わせた系統もある。

食欲の制御と肥満 Appetite control and obesity


肥満の主要な原因の一つとして,食欲を抑制するための神経回路に異常がみられることが挙げられる(4)。


食欲の制御には,


  1. 栄養態に応じた全身性の制御
  2. 報酬系 reward system による制御


の 2 つのメカニズムがある。報酬系による制御とは,おいしいものを食べたときにどの程度快楽を感じるかで食欲の強さが決まることである。これは神経系が中心であり,辺縁系 limbic region や大脳皮質 cortex のinsula, ACC やドーパミン系が関与している。

 

また,内分泌系と神経系に分けて考えることもできる(3)。


  1. 内分泌系では,レプチン leptin,グレリン ghrelin,インスリン insulin,オレキシン orexin,神経ペプチドY NPY などが関与する。
  2. 神経系では視床下部 hypothalamus の神経核 nucleus である arcuate nuscles(ARC)や VMH (満腹中枢)による制御が有名である。各種ホルモンとこれらの神経核は,どちらも栄養状態に応じた全身性の制御と関係が深い。

 

 


肥満と感覚受容 Obesity and sensory perscption


> 肥満の人は,口腔感覚(口,舌など)に関する脳領域の resting activity が高い(5I)。

> 実際にものを食べたときだけでなく,食物の写真や臭いでも脳は活性化する(6I)。

: 実験動物では,prefrontal cortex, amygdala, nucleus accumbens (NAc) が活性化するという報告あり。


その他 Others


> 美味しいものを食べたときには脳が満足感を覚える(reward)。食物と薬物(含アルコール)は競合する(3)。

: 肥満モデル動物は,薬物に対する反応が弱い。

: ヒトでも,BMI と違法な薬物使用に逆相関があることが報告されている。


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References

  1. Charles River catalog, 2013.
  2. 厚生労働省HP 2013: http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/about.html
  3. Volkow et al. 2013a (Review). The addictive dimensionality of obesity. Biol Psychiatry 73, 811-818.
  4. Volkow et al. 2011a (Review). Reward, dopamine and the control of food intake: implications for obesity. Trends Cogn Sci 15, 37-46.
  5. Thanos et al. 2013a. Obese rats deficient leptin signaling exhibit hightened sensitivity to olfactory food cues. Synapse 67, 171-178.
  6. Chua et al. 1996a. Phenotypes of mouse diabetes and rat farry due to mutations in the OB (leptin) receptor. Science 271, 994-996.
  7. Yokoi et al. 2013a. A novel rat model of type 2 diabetes: the Zucker fatty diabetes mellitus ZFDM rat. J Diabetes Res 2013, 103731.
  8. 岡崎 2010a (Review). LDL コレステロールとは? その測定法の問題点を解決策は? オレオサイエンス 10, 471-475.