解離定数: Dissociation constant, Kd

5-4-2017 Last update

 

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酸・塩基関係は,この順に読むとわかりやすいです。まずは質量作用の法則と平衡定数のページをおすすめします。

 

  1. 質量作用の法則と平衡定数
  2. 酸・塩基の定義
  3. 水のイオン積と pH
  4. 解離定数(このページ)
  5. 緩衝液 buffer について

  1. 概要: 解離定数とは
    • 解離定数の単位
  2. 酸と塩基の解離定数 pKa
  3. 平衡移動と pKa
  4. pKa の実験的求め方

 

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  1. リガンドと受容体の解離定数

概要: 解離定数とは

化学反応 aA + bB + ... ⇌ cC + dD + ... が平衡 equilibrium に達したとき,各成分の濃度の比 K

 

は 温度と圧力だけの関数となる という法則を 質量作用の法則 law of mass reaction という (3)。K は 平衡定数 equilibrium constant と呼ばれる。

 

解離定数 dissociation constant は平衡定数の一種であり,化学反応が解離 dissociation(可逆的な分解)の場合の名称である。当然,解離定数にも単位は存在しない。

 

 

理化学事典 (4) による「解離定数」の定義は以下のとおり。

 

物質がその成分原子,イオン,原子団などに可逆的に分解する反応をいう。一般に高温ほど分解が進む傾向があり, 加熱による解離を熱解離という。また水溶液中などで電解質がイオンに解離する場合をとくにイオン解離または電離という。解離反応の平衡状態 (解離平衡) に対して質量作用の法則が適用され,その平衡定数をとくに解離定数という。

 

また解離平衡において解離している分子数の全分子数に対する割合を解離度という。電離に対する解離定数,解離度をそれぞれ電離定数,電離度ということがある.

 

 

解離定数の単位

解離定数の単位は,解離式によって変わってしまうのでしばしば問題となるところである。まだ十分に理解していないが,質量作用の法則と平衡定数 のページで平衡定数の単位について触れているので参照してほしい。解離定数は平衡k定数の一種なので,同じことである。

 

ざっくり言うと,平衡定数は本来は無次元の数であるが,濃度を使った上の式は実は近似式であり,この場合は単位をもつようになっているとのことである。

 

 

酸と塩基の解離定数, pKa

この項目は,酸と塩基についての一連のトピックの一部でもあります。体系的に調べたい人は,右のような順番で読むことをお勧めします。

 

  1. 質量作用の法則と平衡定数
  2. 酸・塩基の定義
  3. 水のイオン積と pH
  4. 解離定数(このページ)
  5. 緩衝液 buffer について
  6. 各種 buffer のページ: TBS からリンクあり

上記の解離反応が,Hを放出する反応であるとき,その解離定数をとくに Ka という。a はおそらく acid に由来し,OHを放出する塩基 base に対しては Kb が使われることもある。

 

Ka 解離定数であるので,その式自体に特別なところはない。しかし,pKa は生理的に大きな意味をもっている値なので,ここで詳しく解説する。

 

COOH をもつ脂肪酸 fatty acid が解離して,Hを放出する反応を考えよう。このとき,Ka および pKa は以下のように定義される(5)。

 

 

pKa は,要するに [H+] に対する pH と同じである。

 

  • 強酸では, 水溶液中で全ての分子が完全に解離していると考えることが多い。この場合,分母が 0 になってしまうので,強酸の解離定数は定義できない
  • ただし,生化学反応で 100% がどうにかなる反応など実際にはないはず。岩波 理化学辞典 第5版 には,「pKa < 3 のものをふつう強酸という」と書かれている。私は個人的に強酸・強塩基という曖昧な概念が嫌いである。

 

pKa のポイント 1: 強い酸ほど pKa は低い

「強い酸」とは,解離の程度が高い酸,すなわち同じ濃度でたくさんの Hを放出できる酸のこと。

 

解離度が高いということは,分子の値が大きく,分母の値が小さいということである。したがって Ka は大きくなる。pKa にはマイナス符号がついているので,pKa は小さくなる。代表的な酸の pKa を表にしてみる。

 

例えば炭酸 H2CO3 は,2 段階で Hを放出する。そのため,それぞれの段階に pKa があり,pK1, pK2 などと表される(1)。

pKa 文献
塩酸 HCl -8  
乳酸 Lactic acid 3.86 5
酢酸 Acetic acid 4.76 5
アンモニウムイオン NH4+ (プロトンを放出するので酸である) 9.25 5
炭酸 Carbonic acid

pK1 = 6.37

pK2 = 10.25

5
リン酸 Phosphoric acid

pK1 = 2.15

pK2 = 6.82

pK3 = 12.38

5
アミノ酸の pKa は,アミノ酸のページにあります。

1.8 から 13 と広い

5

pKa のポイント 2: pKa は,その酸が半分だけ解離したときの pH である

これは単純な式変形だ。

 

上の式で,半分だけ解離しているのだから [RCOO] = [RCOOH] である。するとこれらがきれいに約分されて,

 

Ka = [H+]

 

よって

 

pKa = pH

 

 

pKa のポイント 3: Henderson-Hasselbalch の式

弱酸 HA が

 

HA ⇌ H+ + A-

 

 

のように電離するとき,以下の Henderson-Hasselbach の式 が成り立つ(5)。導き方は省略するので,教科書などを参照のこと。

 

 

この式からは,様々なことがわかる(5)。

 

  1. pKa のポイント 2 と同じく,弱酸のちょうど半分が電離しているとする。このとき,[A-] = [HA] であることから,log の部分は 0 になり,つまり pH = pKa。
  2. [A-] と [HA] の比が 100 : 1 のとき,log の部分は 2 になる。よって pH = pKa + 2。

 

この式をグラフにプロットすると,右の図(7)のようになる。

 

X 軸は pH - pKa,Y 軸は電離している HA の割合である。


平衡移動と pKa

このセクションでは,平衡,平衡移動の概念と pKa を繋げることを試みる。考える平衡は HA ⇌ H+ + A-  であるが,具体例として酢酸の平衡

 

CH3COOH ⇌ H+  + CH3COO- 

 

 

 

をイメージしよう。酢酸の pKa は約 5 である。

 

まず,一定量の水に 1 g の酢酸を加えたら pH が 6 になったとする。これに,さらに 1 g の酢酸を加えたら pH が 5 になった。このとき,解離度や平衡にどのような変化が起こっているだろうか? 温度などの条件は一定とする。

 

 

酢酸の pKa を 5 として考えると,温度・圧力一定の条件下では,この値は変わらない。たとえ平衡が左右に動いても変わらない ので,上の条件では定数として扱ってよい。 

 

pH = 6 のとき,

 

なのだから log([A-]/[HA]) = 1 である。したがって [A-]/[HA] = 10 となり,[A-] = 10 x [HA] である。[HA] は加えた酢酸全体の濃度ではなく,「加えた酢酸のうち,電離していないものの濃度」であることに注意しよう。

 

 

CH3COOH ⇌ H + CH3COO- 

 

 

の式で CH3COOH の 10 倍の CH3COO- があるのだから,平衡はかなり右に寄っているというイメージだ。

 

さて,さらに酢酸 1 g を加えて pH = 5 になったとき,同様の計算によって [A-] = [HA] である。つまり,酢酸のちょうど半分が電離している状態。上で述べた pH = pKa = 5 の状態だ。pH = 6 の状態から考えると,平衡が左に移動し,電離度が下がったと考えられる。

 

これは,CH3COOH を加えたので,それを打ち消す方向に平衡が移動した(ルシャトリエの原理)と理解できる。このことから,酸の濃度が上がると,電離度は下がる という一般則を導くことができる。

 

pKa の実験的求め方

pKa は,滴定実験から求めることができる。計算式は,文献 8 にわかりやすくまとめられていた。Henderson - Hasselbach の式を実際に使うことになる。

 

 

ある弱酸 HA を,強塩基の水酸化リチウム LiOH で滴定する実験を考える。すると,[A-] および [HA] は,実験的に得られる以下のパラメーターを用いて表すことができる。すなわち,

 

  • CH: 弱酸試料溶液の濃度
  • VH: 弱酸試料溶液の体積
  • COH: 滴下した LiOH 溶液の濃度
  • VOH: 滴下した LiOH 溶液の体積

 

としたとき, 

 

である。どちらの式も,分子の単位は濃度 x 体積(つまり酸および塩基の量),分母の単位が濃度であるので,全体としての単位は濃度になる。

 

なお,考える反応は

 

HA + LiOH   ⇌ H2O  + Li+  + A-

 

であり,いくつか重要な事項がこの立式に込められている。確認しておこう。

 

  • LiOH は強塩基なので,完全に電離すると仮定している。よって Li+  と Aの濃度は等しくなる。
  • HA は,ちょうど LiOH と釣り合う分だけ電離している。なぜならば,上の式でさらに HA が電離すると,Aがさらに供給されることになり,平衡が左へ移動し,結局 HA に戻るためである。
  • もし HA と LiOH が等量存在すると,HA は完全に電離することになる。なぜならば,HA が存在することで平衡が右に移動するためである。「滴定では弱酸の電離度は考慮しなくて良い」というルールの原理。

 

[A-] は Li+ との濃度と等しく,最初の式で与えられることになる。分子は加えたアルカリの量,分母は溶液の全体量である。

 

[HA] は,もともとの酸の全体量から,加えたアルカリの量を引くことで求められる。加えたアルカリの分は,完全に電離していると考える。

 

式変形から,

 

 

この式で,pKa 以外は全て滴定実験から得られるデータになる。縦軸に pH,横軸に log の値をプロットすると直線状のグラフとなり,その切片が pKa になる。

 

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References

  1. 株式会社ファルマデザイン.Link.
  2. その相互作用は強いのか - 解離定数の判断基準. pdf file
  3. Berg et al. Biochemistry: 使っているのは 6 版ですが 7 版を紹介しています。
  4. 岩波 理化学辞典 第5版: 使っているのは 4 版ですが 5 版を紹介しています。
  5. 清水 (訳) 2015a. イラストレイテッド ハーパー・生化学 30版.
  6. pKa とは? ヘンダーソン-ハッセルバルヒの式. Link.
  7. Petergans (talk) - A species distribution diagram as described in Martell, A.E.; Motekaitis, R.J. (1992). Determination and use of stability constants. Wiley. ISBN 0471188174. Section 2.4,公有领域,链接
  8. 瀧澤ら (2015) 一塩基酸の中和滴定曲線の解析と酸解離定数の測定:pHメーターを用いた無機分析実験の教材化. 新潟大学教育学部紀要 8, 117-122.