カロリー制限 Dietary restriction

6-17-2017 Last update

 

このページは カロリー制限 および 餌の量を振ることの重要性 @本家UBサイト に恒久的に移転しました。このページもネット上に残っていますが,最新の情報はリンク先を参照して下さい。

 

 


  1. 定義
  2. カロリー制限と寿命
    • サル
    • ラット
    • マウス(別ページで詳しく)
    • Drosophila
    • C. elegans
  3. カロリー制限の方法: CCR と IF の詳細
  4. カロリー制限が影響する時期


定義

適切な栄養状態を維持したまま,摂取するカロリーを減らすことを カロリー制限 calorie restriction or caloric restriction という。 老化 aging の遅延,寿命 lifespan の延長などを引き起こすことが多く,健康に長生きするための手段として着目されている。

 

ただし,摂取カロリーを維持したまま特定の栄養素を減らしても,寿命の延長がみられる場合がある(たとえばタンパク質制限 protein restiction; ref 3I )。 この現象まで含めた概念として,食事制限 dietary restriction という言葉も提唱されている。ショウジョウバエの研究では,こちらが使われることが多いようである。

 

  • Calorie restriction (CR), defined as a reduction of caloric intake with adequate nutrition, ameliorates common diseases of aging, such as... (2)

カロリー制限と寿命

カロリー制限が寿命を延ばすことは有名で,論文数も膨大である。このページでは,生物ごとに簡単に概要を紹介するとともに,餌の量を振ってカロリー制限の影響を調べることの重要性について まとめる。

 

サル

> 2009 年に DR が Resus monkey の寿命を延ばすという論文が発表された(9)。

: Wisconsin National Primate Research Center からの論文で,20 年にわたる飼育実験である。

: 論文発表の時点で 50% の control animal と 80% の CR animal が生存している。

: 寿命だけでなく age-associated pathologies(糖尿病,ガン,心筋症,脳の萎縮など)も抑えられた。

 

 


ラット Rat

カロリー制限によるラット rat の寿命延長は,McCay (1935) で報告された(6)。この論文は古典として様々なところで引用されている。

 

タイトルは The effect of retarded growth upon the length of life span and upon the ultimate body size であり,体サイズの減少が及ぼす影響と捉えていたと思われる。

 

> McCay (1935): 106 匹のラットを3グループに分け,寿命だけでなく成長なども測定(6R)。

: Group I (AL), 平均寿命オス 483 日,メス 801 日。

: Group II (離乳後にDR), 平均寿命オス 820 日,メス 775 日。

: Group III (離乳後 2 週間 AL, その後 DR)。平均寿命オス 894 日,メス 826 日。

: Groups II, III の DR は,体重が増加しないように餌の量を調整している。

 


マウス Mouse

> C57BL/6 miceでは,1 日おきに給餌する IF,毎日のカロリーを 60% にするCCRのどちらでも寿命延長(1I)。

: CCR は,この論文ではLDF (limited daily feeding) と呼ばれている。

: 9 週齢まで AL で飼育し,その後 LDF は 60% 給餌,IF は一日おき給餌をしている。

: 両方でインスリン感受性が増大し,神経が保護されることを示唆する結果が得られたが程度が違った。

: LDFでは,カロリーを40%減らすと体重は49%低下する。つまり燃費も悪くなる。

: IF で餌の総摂取量は変わらなかった。餌がある日は2倍ぐらい食べているということ。

: IF で IGF-I と β-hydroxybutylate が増えるが,LDF では減るのが大きな違いだった。

: 大事なのは総カロリー量だけではないと主張している(1R)。

 


ショウジョウバエ Drosophila

ショウジョウバエでは,DR を理解する上で非常に重要と考えられる報告がなされている(5)。

 

右図のように,様々な餌の濃度で2系統の寿命を比較している。chico はインスリン受容体基質 IRS の相同分子で,Drosophila で欠損させると寿命が長くなることが報告されている分子である。

 

右の図からわかることは,以下の通りである。

 

  • chico の変異は,DRによる寿命延長が起こる条件を変えているだけで,最大寿命は延ばしていない。
  • このことから,chico と DR は重複するメカニズムで寿命に影響している可能性がある。
  • 餌の濃度を固定した実験だと,chico の変異は Drosophila の寿命を延ばす or 縮めるという両方の結果が出る可能性がある。

 

Clancy et al. (2002) から引用


したがって,寿命を調べる実験においては,常にこの報告のように餌の濃度を振って,寿命が最大となるポイントで評価することが重要である。これはとても手間がかかるので,多くの論文では行われていない。寿命が延びる or 変わらない or 短くなるという矛盾した結果が報告されているときは,このような可能性も視野に入れて議論する方がよい。

 

> 幼少期(3rd instar larvae)でDRを行っても,寿命は延長しなかった(4R)。

: 体サイズの減少,繁殖の低下,インスリン様ペプチド産生細胞のサイズは低下。

: 逆に言えば,これらの現象は寿命延長の十分条件でないこともわかる。

 


C. elegans

C. elegans のカロリー制限に関する論文としては Klass (1977) が有名である(7) 。2014 年 5 月の時点で 474 回引用されている。

 

餌のバクテリア濃度を 0 から 1 x 1010 まで変化させて寿命を比較しているが,どこがカロリー制限で,どこが過給餌であるかという判断は難しい。

 

かっこの後ろの数字は産卵数で,これが最大となる 1 x 10を最適な餌の量とすると,そこから段階的に餌を減らすことで寿命が延びていることになる。1 x 1010 は過給餌,5 x 107は餌不足と思われる。

  • 4日(0)産卵数 0
  • 5日(1 x 104)0
  • 5日(1 x 106)0
  • 15.1日(5 x 107)14
  • 25.9日(1 x 108)63
  • 19.4日(5 x 108)206
  • 16.0日(1 x 109)273
  • 15.0日(1 x 1010)26

 

この傾向は最近の論文でも確認されている(右図,文献8Rから引用)。

 

緑の線は寿命の制御に重要と考えられている FoxO の C. elegans オーソログ,DAF-16 変異体で餌の濃度を変化させたときの寿命である。

 

カロリー制限による寿命の延長には,DAF-16 が必要であることがわかる。

Greer and Brunet (2009) から引用



カロリー制限の方法

DR という言葉は様々なタイプの摂餌制限に使われているが,摂餌を制限する方法には様々なものがあり,それらが同じ応答を引き起こしているという保証はない

 

給餌方法の違いにより,DR は大きく以下の2つに分けることができる。詳細は CCR & IF のページにまとめる。1 は limited daily feeding (LDF) と呼ばれることもあり(1),給餌の回数はそのままにして量を減らすことである。2 では餌の回数が減らされる。

 

  1. Chronic calorie restriction (CCR)
  2. Intermittent fasting (IF) 

 

一般に,CCR および IF は両方とも寿命を延ばすが,その程度などに違いがあり,異なる応答が起こっていると考えられている。

 

なお,C. elegans では少なくとも 8 種の CR 方法が報告されている(8I)。 

  • eat-2 という遺伝子の変異で,餌を食べる能力が低下して結果的に DR になる。
  • Liquid culture において餌の濃度を下げる方法 x 2 種類。
  • DR のような表現型を引き起こす薬品 x 2 種類。
  • 培地上で飼育した際に,ペプトンの量を減らすことでバクテリアの増殖を遅くする。それを食べる C. elegans も DR になる。
  • プレート上に全くバクテリアをおかない(dietary deprivation, DD)。
  • プレート上でバクテリアを段階的に希釈する。

カロリー制限の時期

カロリー制限は,一般に 早い時期の方が影響が大きい


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References

  1. Anson 2003a. Intermittent fasting dissociates beneficial effects of dietay restriction on glucose metabolism and neuronal resistance to injury from calorie intake. Proc Natl Acad Sci USA 100, 6216-6220.
  2. Smith et al. 2009a. Small molecule activators of SIRT1 replicate signaling pathways triggered by calorie restriction in vivo. BMC Systems Biology 3, 31.
  3. Youngman et al. 1992a. Protein oxidation associated with aging is reduced by dietary restriction of protein or calories. PNAS 89, 9112-9116.
  4. Tu and Tatar 2003a. Juvenile diet restriction and the aging and reproduction of adult Drosophila melanogaster. Aging Cell 2, 327-333.
  5. Clancy et al. 2002a. Dietary restriction in long-lived dwarf flies. Science 296, 319.
  6. McCay et al. 1935a. The effect of retarded growth upon the length of life span and upon the ultimate body size. Nutrition 5, 155-171.
  7. Klass 1977a. Aging in the nematode Caenorhabditis elegans: major biological and environmental factors influencing life span. Mech Ageing Dev 6, 413-429.
  8. Greer & Brunet 2009a. Different dietary restriction regimens extend lifespan by both independent and overlapping genetic pathways in C. elegans. Aging Cell 8, 113-127.
  9. Colman et al. 2009a. Caloric restriction delays disease onset and mortality rhesus monkeys. Science 325, 201-205.