アルツハイマー病: Alzheimer's disease

4-4-2017 Last updated

 

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  1. 概要
  2. 疫学調査
  3. 原因
  4. 脳の形態変化
  5. 脳の代謝変化
  6. 動物モデル一覧
  7. 診断と治療(別ページ)
  8. その他の神経変性病(別ページ)


概要

以下は文献 1 のアルツハイマー病 Alzheimer's disease (AD) の説明である。記憶力の減衰などが原因で,日常生活に支障をきたす症状を認知症 dementia というが,AD は認知症の主な原因であり,患者数は非常に多い。認知症の診断基準は,DSM-5 などで定義されている。

 

アルツハイマー病は緩徐進行性の原発性脳変性疾患で全認知症患者の50%以上を占める。記憶障害を初発症状とし,見当識障害や失行,失認が生じる。初期にうつ症状を示すことがよくある。40-90 歳の間で発症することが多く,65 歳以下では早発性,65 歳以上では晩発性とされる。危険因子は加齢,女性,低教育歴,頭部外傷歴,遺伝性(apoE の ε4 多型)である。

 

肉眼病理上は全脳のびまん性萎縮を示す。組織学的には神経原線維変化(神経細胞内で Tau protein が異常リン酸化し蓄積したもの)が側頭葉内側の嗅内皮質に出現し,進行すると側頭,頭頂,後頭葉協会行きの大脳皮質にも出現,拡大する。重症度と相関し,健常人にはほとんどみられない。

 

Braak は神経原繊維出現頻度により Stage 1 - 6 に進行度を分けている。アルツハイマー病発症前段階の MCI (mild cognitive impairment) は Stage 2 - 3 に該当し,軽度アルツハイマー病は Stage 3 - 4,中等度アルツハイマー病は Stage 4 - 5 に該当する。一方,老人斑(アミロイド周囲に神経細胞などが集合したもの)はアルツハイマー病の初発所見とされるが,老人斑の量や範囲は重症度とは相関せず,健常老人でもみられる。

疫学調査: Epidemiological survey

 

> 65 歳以上人口の 13%,85 歳以上人口の 45% が AD を発症していると見積もられている(15)。

 > 遺伝性 Familial AD の割合は 5% 程度と低く,ほとんどが散発性 sporadic である(5I)。

: ごく少数が家族発生し,プレセニリン 1 遺伝子などが関与する(1)。

: 3 つの遺伝子が familial AD と関連する。Amyloid precursor protein, presenilin, apolipoprotein E (7).

 

 

> 新潟県糸魚川での調査。65 歳以上: 6.2%が認知症, AD 4.0%, vascular dimentia 1.2%, others 0.3% (4R)。

: 6.2% は他の調査よりやや高いが,糸魚川は年齢層が高く,地方であるのでそのためかもしれない(4D)。

 

原因

アルツハイマー病の病態は多様であり,全ての病態を説明できる原因というものはない(11)。遺伝性ADならば原因遺伝子の同定は可能であるが,とくに散発性の AD において原因の特定は進んでいない(5I,7)。

 

アミロイドβ の蓄積と過剰リン酸化タウ hyperphosphorylation of Tau protein の蓄積は多くの病態で観察される現象で,有力な原因として考えられている。ただし,これは認知症の程度と相関する,またはしないの両方の報告がある。

 

また,アルツハイマー病患者の脳ではアセチルコリン acetylcholine が不足しており,分解酵素アセチルコリンエステラーゼの阻害剤フィゾスチグミン,タクリン,ドネパジルなどが治療薬として用いられている(13)。

 

原因として提唱されている現象

  1. アミロイドβの蓄積 amyloidgenesis(5I, 7)
  2. Hyperphosphorylation of Tau(5I, 11)
    1. Neuronal cytoskeletal degeneration hypothesis(7)
  3. カルシウム代謝の異常 Disruption of Ca homeostasis(5I)
  4. エネルギー代謝の異常 Energetic failure(5I)
    1. ミトコンドリア機能不全(7)
  5. 酸化ストレス Oxidative stress (5I)
    1. 金属イオン(7)
  6. Cholineric hypothesis(7, 10I)
  7. 炎症 Inflammation(7)

 

家族性ADで報告されている変異

Amyloid precursor protein (APP)

 

> 20以上の病原性変異がみつかっている(8)。

V717I London mutation, V717F Indiana mutation, K670D/M671L Swedish or APP mutation, E693G Arctic mutation.

 

Presenilin 1, 2 (PSEN1, 2)

 

> 家族性 AD は主に presenilin 遺伝子の変異により,これまでに 130 以上の変異が報告されている(8)。

> Presenilin の変異は,家族性 AD の 90% を占める(11)。

 

脳の形態的変化

Atrophy 萎縮

特定の部位で,神経細胞 neuron やシナプスが失われるとともに,β-アミロイドやNFTsの蓄積がみられるのが特徴。文献によって萎縮がみられるとする場所に違いがあるが,海馬 hippocampus や大脳皮質 cortex の萎縮は数多く報告されている。

> Entorhinal cortexが最も早く, わずかに遅れてhippocampus, amygdala, and parahippocampus (2).

> 順にHippocampus, cortex, amygdata and nucleus basalis of Meynert (8).

: Nucleus basalis of Meynert is a group of cholinergic nerve cells in the basal forebrain.

 

軽度認識傷害(MCI; mild cognitive impairment)およびアルツハイマー病(AD)でみられる海馬の萎縮(文献9より転載)。

 たとえば左下のAD-MCIの青い部分は,MCI患者に比べてAD患者で2 mm前後の萎縮が起こっていることを示している。同様に,左上のパネルをみると,MCI患者ではNC(normal control)に比べてあまり萎縮が起こっていないこともわかる。

 側脳室lateral ventricleでも同様の傾向がみられる。MCIとADは,これらの部位の容積よりも形に大きな違いが出る。

脳のグルコース代謝変化

アルツハイマー病では神経が分解されるため,基本的に代謝は低下する。グルコース代謝の低下は,PET,MRIなど様々な手法で調べられている。-> 脳のグルコース代謝

 

 

代謝が低下する部位

以下の場所で,グルコース代謝の低下 hypometabolism が観察されている。多くは FDG-PET のデータであるが,PETは空間分解能の低いイメージング手法(4 - 5 mm)であり,あまり詳細な部位の特定はできない。

文献15では,グルコース代謝の低下するエリアは以下のようになっている。やや古い文献なので注意。

 

> 大脳皮質では,多くの部分でグルコース代謝が低下する(15R)。

: 頭頂葉 parietal lobe, 側頭葉 temporal lobe, 前頭葉 frontal lobe, 後頭葉 occipital lobe の皮質。

: 視床の値で標準化すると,後頭葉は有意差がなくなる。影響が小さいと言える。

 

> 感覚運動皮質 sensorimotor cortex は影響が小さい(15R)。

> 視床 thalamus では代謝は低下しない(15R)。

> 通常,グルコース代謝の低下は左右対称に観察される。ただし低下の程度は左右対称とは限らない(15I)。

Cortex 大脳皮質

  • Posterior midline cortices of the parietal (precuneus) and posterior cingulate gyri (2R)
  • Medial temporal cortices (2R).
  • Primary cortex (2R).
  • Bilateral parietal cortex (12R)
  • Bilateral temporal cortex (12R)

Hippocampus 海馬 (2R)

The inferior parietal lobule (2R)

Posterolateral portions of the temporal lobe (2R)

The parental cingulate (14I)

The posterior cingulate (12R, 14I)

診断への応用

>  PET で検出される低グルコース代謝は,認知機能テスト ADAS-cog や FAQ のスコア低下を予測できる(14)。

: つまり 実際に認知機能が低下する前に脳のグルコース代謝が低下するということ。

Others

> 脳の各部位で fMRI シグナルが同調して変化することを connectibity という。ADでは一般に相関が低下(6)。

: 記憶に関連する領域である海馬 hippocampus で,左右の相関が低下するのは有名である。

Animal models

Mouse

Tau models

 

> Longest human wt tauをneuronで発現するTg miceが最初のtau model。pre-tangle形成など(8)。

> のち,P301Lという変異の入ったtauを発現するモデルが作られ,広く用いられるようになった(8)。

> 他にもN279K, delta-K280, P301L, P301S, V337 and R406W のTg miceが作られている(8)。

APP models

 

> Human amyloid precursor protein 23 (APP23) transgenic mice (3I). Neuronal promoter.

> 6ヶ月齢ごろからAβをneocortex, hippocampusに蓄積。AD患者に似たcognitive declineを示す(3I)。

> Paw stimulationによるsomatosensory areaの血流増大が,25ヶ月齢でwt mouseより低い(3R)。

 

APPとtauの複合型

 

> JNPL3 strain: APP Tg strain Tg2576 と P301L tauをかけ合わせたもの(8)。

> pR5 strain: P301 tau strainにAβ42を注射したもの。症状が激しくなる(8)。

Secretase models

 

> APPのプロセシングを行うβ-,γ-secretaseの変異体もいる(8)。

ApoE models

 

> APOE遺伝子のε4 alleleは,アルツハイマー病のリスクファクター(8)。

> APP Tg miceをAPOE-/-にかけ合わせるとAβの沈着が抑えられるが,そこにApoE4を入れると増える(8)。

Axonal transport models

 

> 軸索の物質輸送を行う kinesin light chain のKlc+/- mouseはAPP異常により症状が出やすい(8)。

Rat

FAB rat

> Fe2+,Aβ42,グルタチオン合成阻害剤 buthionine-sulfoximine 注射でAD様の症状を示す(5R)。

> 多くのtransgenic modelがfamilial ADのモデルであるのに対し,これはsporadic ADのモデル(5R)。

> AβおよびNFTs蓄積,海馬や大脳皮質での神経細胞死,Morris water mazeスコア低下など(5R)。

> 前2者のみを注入しても症状はみられないことから,脳の酸化ストレス耐性の低下が発症に必要といえる(5D)。

 
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References

  1. よくわかる脳 MRI 第 3 版, 秀潤社, 2013
  2. Johnson 2012a (Review). Brain imaging in Alzheimer disease. Cold Spring Harb Perspedt Med 2, a006213.
  3. Mueggler 2003a. Age-dependent impairment of somatosensory response in the amyloid precursor protein 23 transgenic mouse model of Alzheimer’s disease. J Neurosci 23, 8231-8236.
  4. Nakamura 2003a. Prevalence and predominance of Alzheimer's type dimentia in rural Japan. Phychogeriatrics 3, 97-103.
  5. Lecanu 2006a. Beta-amyloid and oxidative stress jointly induce neuronal death, amyloid deposits, gliosis, and memory impairment in the rat brain. Pharmacology 76, 19-33.
  6. Zhang 2010b (Review). Disease and the brain's dark energy. Nat Rev Neurol 6, 15-28.
  7. Tiiman 2013a (Review). The missing link in the amyloid cascade of Alzheimer's diseare - metal ions. Neurochem Int 62, 367-378.
  8. Gotz 2008a (Review). Animal models of Alzheimer's disease and frontotemporal dementia. Nat Rev Neurosci 9, 532-544.
  9. Yang 2012a. CSF and brain structural imaging markers of the Alzheimer's pathological cascade. PLoS One 7, e47406.
  10. Kashiwaya 2000a. D-β-hydroxybutyrate protects neurons in models of Alzheimer's and Parkinson's disease. PNAS 97, 5440-5444.
  1. Dong et al. 2012a (Review). Advances in the pathogenesis of Alzheimer's disease: a re-evaluation of amyloid cascade hypothesis. Transl Neurodegener 1, 18.
  2. Arbizu et al. 2013a. Automated analysis of FDG PET as a tool for single-subject probabilistic prediction and detection of Alzheimer's disease dimentia. Eur J Nucl Med Mol Imaging 40, 1394-1405.
  3. 河合良訓 監修 2005a. 脳単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (脳・神経編))
  4. Landau et al. 2011a. Associations between cognitive, functional, and FDG-PET measures of decline in AD and MCI. Neurobiol Ageing 32, 1207-1218.
  5. Liu et al. 2013a. Apolipoprotein E and Alzheimer disease: risk, mechanisms and therapy. Nat Rev Neurol 9, 106-118.