モーリスの水迷路試験, Morris water maze test

5-15-2017 Last update

 

このページは Morris Water Maze @本家UBサイト に恒久的に内容を追加しつつ移転しました。このページもネット上に残っていますが,最新の情報はリンク先を参照して下さい。

 

  1. 概要
  2. 方法
    • 結果に影響する要因
    • 実験の流れ
    • 測定するパラメーター
  3. 何をテストしているのか?
  4. 関連する脳領域
  5. 実施例

関連項目



概要

モーリスの水迷路試験 Morris water maze とは,空間学習能力 spatial learning と記憶力 memory を測定するための行動試験 behavioral test である(6)。


Morris water maze という名前が最も一般的であるが,Morris swimming pool, Morris maze, swimming maze, spatial navigation task などとも呼ばれる(6)。Morris らのグループからの論文では,謙虚に単に water maze としている。



方法

概要は下の写真(4)に示す通り。

 

  • ラットを不透明の直径 1 m のプールに浮かべる。
  • プールには,見えないように platform が設置されており,動物はそこに辿り着くと登って休むことができる。
  • Platform の場所は,装置に設置された visual cue(下の図では青,オレンジ,緑の図形)を手がかりにして記憶する。通常は,platform の位置を変えずに,ラットを入れる位置を変えて学習させる。
  • 何回かトレーニングを行ったあとでは,記憶力が高い動物ほど,platform に辿り着くまでの時間が短くなる。
  • 一度,このテストを行ってルールを理解したラットは,新しい迷路に入れられても,早く課題を学習することができる(5)。学習効率がデータになる。

下の図では,海馬 hippocampus で神経の発火 firing が起こった場所が赤の x で示されている。3つのプラットフォームに対して特定に位置にきたときに発火が起こっていることがわかる。このことから,海馬が visual cue からの platform の位置の推定に関わっていることが示唆される。


 

Approaches to understanding landmark processing in rodents (Cited from reference 4).

Legend も読みたい方は こちら へ(ブログサイトに飛びます)。

 

結果に影響する要因


動物の種類,コンディションなど


> ラットを対象として考案されたテストで,マウスでの使用には問題点が指摘されている(6)。

: 一般に,モリス水迷路でのマウスの遂行能力(空間学習記憶)はラットよりも低い。

: しかし,課題遂行の動機付けが「水からの逃避」でない場合は,マウスとラットの遂行能力は同等。

: 水泳能力,視力,水に対する反応性などの違いが影響していると考えられる。

: マウスは泳がずに floating する傾向,壁に沿って泳ぐ傾向 thigmotaxia がラットよりも強い。


> 一般に,メスよりもオスの方が空間認識能力に優れる(6)。

: テストステロン testosterone, エストラジオール estradiol など性ホルモンの影響も調べられている。

: 成績は上がったり下がったりと色々な報告がある。おそらく投与量による。


> 加齢によって成績は低下する(6)。

: 遊泳能力の低下はその一因であるが,加齢による認知能力の低下は他の試験でも示されている。

: 認知能力の低下は,加齢による海馬体 hippocampal formation の萎縮などと関連している。


> 食べ物,栄養状態によっても左右される(6)。老化の速度を介した二次的影響かもしれない。

: ブルーベリー,ほうれん草,ストロベリー抽出物による成績の向上。抗酸化作用による?

: n-3 PUFA による改善。



実験装置の影響


> 周辺の景色。カーテンで覆うと成績が下がるので,visual cue を使っていることは確かである(6)。

: どれだけ visual cue を用意すれば十分であるかはわかっていない。


> 装置自体(6)。水を不透明にするために,ある論文では粉ミルクを,他の論文では塗料を使ったりしている。

: 水温は遊泳能力に影響するため,重要である。


実験の流れ


Learning phase

 

Hidden-platform に辿り着くまでの時間などが短くなっていく様子を測定する。文献 7 では 5 日間行っている。

 


Probe test

 

学習が成立したあとに platform を取り除いて行うテスト。プールを 4 等分して,それぞれの区画 quadrant にいる時間を測定する。場所を覚えている場合,platform があった区画にいる時間が長くなる。

 

> 普通は通常の試験の後に行うが,時間が 60 s と長いことが問題になる場合もある(3)。

: 場所を覚えていない個体は動き回り target qurdrant にいる時間が少ない。

: しかし,賢い個体もすぐ次を探す行動に出るため,同様に時間が少なくなる。

 

Reversal test

 

Platform の位置を変えて行う再テスト。最初に platform の位置を覚える acquisition learning に対して,新しい位置を覚えるような記憶の上書き作業を逆転学習 reversal learning という。 Acquisition learning とは違った結果を与えることがある。


測定するパラメーター


Latency to reach the platform (sec):

見えないプラットフォームに辿り着くまでの時間 (5). 肉眼で観察しながらストップウオッチで計測することも可能だが,プールの上からカメラで撮影し,PC で解析すれば遊泳距離なども同時に測定できる(8)。


Total distance (m):

プラットフォームに辿り着くまでに泳いだ距離(7)。


Path efficiency:

Shortest path length/actual path length (7).


Time periphery (s):

プールの縁の部分で過ごした時間(7)。

何をテストするのか


薬品投与の時期をずらすことで,その薬品が記憶のどの段階に作用するかを調べることができる。

 

> Midazolam は記憶の acquisition and retrieval but not consolidation を阻害する (1)。

: Morris water maze で,投与の時期を変えることで記憶のどの段階に影響するかをテストできる。

: Learning 期間中,毎日練習前に薬品を投与すると acquisition をテストしていることになる。

: Learning 期間中,毎日練習後に薬品を投与すると,consolidation をテストしていることになる。

: Learning が終了し,probe test の前に薬品を投与すると,retrieval をテストしていることになる。

: つまり,練習後に midazolam を投与しても成績が低下しなかったということ。

注意点


  • 景色をもとに空間記憶を形成するので,試行間で測定室の景色を変えないことが重要である。肉眼で観察するのであれば,試験者は毎回同じ位置に座るなどの細かい配慮が必要(6)。
  • 最初に通常のテストを hidden platform で,次に運動能力に差がないことを示すテストを visible platform でやるのが普通だが,これを同じ個体で行うのは問題がある(3)。
  • 水に漂ったり floating,壁に登ろうとしたりする行動がみられることがある(2)。これは,本来見たい hippocampus dysfunction を反映するものではないので注意が必要。
コメント: 1
  • #1

    通りすがり (木曜日, 27 8月 2015 01:13)

    よいサイト

References

  1. Leng et al. 2005a. Effects of prenatal methylazoxymethanol acetate (MAM) treatment in rats on water maze performance. Behav Brain Res 161, 291-298.
  2. Hanell & Marklund 2014a (Review). Structured evaluation of rodent behavioral tests used in drug discovery research. Front Behav Neurosci, 8, 252.
  3. Gerlai 2001a (Review). Behavioral tests of hippocampal funciton: simple paradigms comprex problems. Behav Brain Res 125, 269-277.
  4. Chan et al. 2012a (Review). From objects to landmarks: the function of visual location information in spatial navigation. Front Phychol 3, 304.
  5. ベアーほか 2007a (Book). 神経科学 脳の探求. 西村書店. Amazon link.
  6. D'Hooge R & De Deyn PP. 2001a (Review). Applications of the Morris water maze in the study of learning and memory. Brain Res Rev 36, 60-90.
  7. Timic et al. 2013a. Midazolam impairs acquisition and retrieval, but not consolidation of reference memory in the Morris water maze. Behav Brain Res, 241, 198-205.
  8. 行動薬理学のススメ. Web.